WOMJ運営委員および関係者による執筆された記事などをご紹介します。
ステマ規制初の措置命令を解説(1)Googleマップ上の口コミの問題点


このコラムは、2024年6月20日の宣伝会議Advertimesに寄稿したものを転載しております。
消費者庁のニュースリリースページから。
2024年6月7日、消費者庁は、「ステマ規制」に関連した初の措置命令を行いました。
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2023年10月1日に「ステマ規制」が施行されてから8カ月が経ちました。クチコミマーケティング運用上の規制遵守も社内で浸透してきたと思える頃だからこそ、あらためて自社の運用には問題がないのか、振り返るべきタイミングと言えるでしょう。
今回は「ステマ規制」に対応するクチコミマーケティング協会(WOMJ)の運営委員会副委員長 ガイドライン担当の山本京輔が、このニュースを通して、今後、ステマ規制がどのように運用されていくのかを考察しつつ、2回にわけて深掘りしていきます。
なお、山本が「ステマ規制」の基礎と実務対策について解説した記事は以下から読むことができます。
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・SNS投稿例で理解するステマ規制(1)景品表示法の場合
・SNS投稿例で理解するステマ規制(2)WOMJガイドラインの場合
ステマ規制で初の措置命令の詳細
はじめに、どのようなことが起きたのかを振り返っておきましょう。消費者庁の発表概要は以下のとおりです。
消費者庁は、令和6年6月6日、医療法人社団祐真会に対し、同法人が運営する「マチノマ大森内科クリニック(以下「クリニック」と記載)」と称する診療所において供給する診療サービスに係る表示について、景品表示法に違反する行為(同法第5条第3号(ステルスマーケティング告示)に該当)が認められたことから、同法第7条第1項の規定に基づき、措置命令を行いました。
公表資料
ここで述べられている「景品表示法第5条第3号の指示告示」、通称「ステマ規制」においては、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示(事業者の表示)であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの(判別が困難)」は、不当表示となります。
事業者の表示であること自体には問題はないですが、事業者の表示であることを隠している、あるいはそうとわかりづらくしてしまうような表示は、「ステマ規制」の対象です。これらの理解については過去の連載で詳しく触れました。
また、「事業者の表示をわかりやすくする」というのは、いわゆる「#PR」や「広告」などの表記を明瞭に記載したうえで掲載を行うということです。下図にステマの不当表示にあたるかどうかの判断基準を掲載しておきます。
ステマ規制の不当表示の判断基準(提供:WOMJ)
処分対象がどんなステマだったのかを振り返る
では、あらためて具体的に事実を見直していきましょう。
消費者庁の公開資料および報道によると、クリニックの受付窓口にて、Googleマップの「クチコミ」に★4か★5の評価をすれば、インフルエンザワクチンの接種代金を550円割り引くと伝えており、これに該当する投稿がステマに当たるとされました。
削除命令が出た45件の投稿については、公開資料には投稿アカウント名が黒塗りされ、クチコミ内容は公開されない状態で一覧が添付されています。
表示の取りやめを指示された投稿一覧の一部(公表資料別表1の5ページ目より)
本記事執筆段階で該当の施設をGoogleマップで閲覧してみると、レビューは520件ありました。評価は1か5に割れており、ちょうど中間の3の総合評価が表示されていました。
クチコミのなかには、「ワクチン接種時に『Googleに☆5のレビューを投稿すれば更に550円OFF!』と案内があったので、小銭に目が眩んで投稿しました。内緒ですよ!」といったクチコミ依頼を公然とつづる文面も見られたという報道もありました。
日を追うごとにクチコミ件数は減っており、今後は上記のような内容も消去されていくと考えられます。
措置命令を受けた、医療法人社団祐真会が運営する「マチノマ大森内科クリニック」のGoogleマップのクチコミから
事実をまとめると以下になります。
2)対価は550円の割引を提示
3)投稿内容の指示は★評価(クチコミで5★満点中4か5を指定)
4)消費者庁がステルスマーケティングだと確認したのは45件
どのような示唆があるか?4つの観点から分析
続いて、今回の行政処分から受け取れるメッセージを考えていきましょう。
処分対象には、消費者庁が、消費者にとってどのようなステマがより有害だと考えているか、というメッセージが込められているはずだからです。
1)現場はGoogleマップ
今回問題となったステマの現場は、有名インフルエンサーを使った施策でもなく、クチコミ施策で定番のXやInstagramでもなく、Googleマップでした。
Googleマップのクチコミは、Googleアカウントさえあれば、誰でも投稿できる地図サービス上のクチコミ機能です。クチコミの星評価が投稿できるのは地図上に表示されている店舗や企業などに対してですが、その一方で、店舗や企業のオーナーは、「Googleビジネスプロフィール」という機能を使うことで、場所を正確に表示したり、写真や公式情報を提供したりして集客に役立てています。
しかし、第三者のクチコミはオーナーには変更・削除が基本的にはできません。このクチコミが集客に影響を与えることは、すでにビジネスオーナーにとっても強く意識されてきています。
最初の行政処分がGoogleマップのクチコミに対して行われたことは、いわゆるSNSの場だけでない、また著名なインフルエンサーによるものではなく一般の方のクチコミについても消費者庁は注視しているよ、というメッセージと言えるでしょう。
Googleビジネスプロフィールは、郵送物確認などでビジネスオーナーと確認されれば無料で利用できる。出典:https://www.google.com/intl/ja_jp/business/
2)対価は550円と少額でも規制されている
「ステマ規制」では、クチコミの対価がいくら以上だとダメ、といった線引きは運用基準でも明確には示されていませんでした。個別の案件に応じての判断、となるからだと思われます。
今回の対価は550円とかなり少額でした。ここには、「高額の対価でなくても規制の対象となり得るんですよ」というメッセージが感じられます。
では、対価のないお願い(指示)ならば大丈夫なのかと思われる方もいるかもしれませんが、対価を支払っていなくても、将来的な仕事に関わる可能性を感じさせることなどによって、事業者の表示だと判断されるケースがあり得るため、グレーな行為となります。
一方で、「依頼・指示」が無くとも、対価・無料提供などがあることで規制対象となり得る、ということも忘れてはいけません。
たとえば、試供品(サンプル)の範囲を超えるような高額な商品やサービスの提供といったものなどは、景表法の「ステマ規制」では「表示内容の決定に関与した」、すなわち「事業者の表示」と判断されることもあると考えられるからです。
3)投稿内容の指示はクチコミの★評価
処分対象になったクリニックでは、過去に大量の★1評価が投稿されています。営業上の評判を気にして、今回のようなステマを指示してしまったのかもしれませんが、良いクチコミ(★4や★5など)を指示することはアウトです。
「ステマ規制」において、第三者のクチコミに対しクチコミの内容や文面を指示すれば、事業者の表示となります。今回のように文面を指示しておらず、評価の★の数を指定しているだけでも事業者の表示となることにも注意しておきましょう。
消費者庁の規制内容からは話が逸れますが、そもそも、Googleマップのユーザー投稿コンテンツに関するポリシーの「禁止および制限されているコンテンツ」として、「企業が提供するインセンティブ(支払い、割引、無料の商品やサービスなど)が誘因となって投稿されているコンテンツ。」にあたり、このような虚偽のエンゲージメントは削除対象です。
投稿内容を見ただけでは偽装行為かどうかの判別がつかないものもあるため、実際にはGoogleが偽装行為の全ての削除をしているわけでもないのですが、プラットフォーム側としても違反行為なのです。
Googleマップのユーザー投稿コンテンツに関するポリシーから
出典:https://support.google.com/contributionpolicy/answer/7400114
4)クチコミの内容がどのように発見・確認されたかは不明
今回ステマに該当するクチコミは45件とありましたが、このクリニックには数多くのクチコミが投稿されていました。消費者庁がすべてのクチコミの投稿者に裏取りをしたでしょうか? それはわかりません。
しかし、ステマに該当するとされたものがステマでないと事業者側も証明できる状況ではないことも問題です。いわゆる誇大広告や薬機法違反の広告などを取り消しするのとはまったく異なる対応が求められてくることがわかってきました。
実際のところ、どのように表示の取り消しを完了し、消費者への周知徹底が完了とされるのか、まだクリニックの対応が完了していないことから、未知の部分も多くあります。
次回は、実際に措置命令を受けた企業はどのような対応が求められるのか、という点について考えていきたいと思います。
山本京輔(やまもと・きょうすけ)
クチコミマーケティング協会(WOMJ)
運営委員会副委員長/ガイドライン担当
博報堂 ビジネスコンプライアンス局 クリエイティブリスクコンプライアンスグループ グループマネージャー。消費者庁・ステルスマーケティング検討会委員。博報堂ではクリエイティブ全般のリスク管理、および炎上・ステマ対策などを行っている。