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2023.11.20コラム

インフルエンサーを多数輩出してきた出版社「ステマ規制」にどう対応する?

インフルエンサーを多数輩出してきた出版社「ステマ規制」にどう対応する?


こんにちは。講談社の冨田美緒と申します。10月1日に施行されたステマ規制対応の「WOMJガイドライン」の改定に向けたワーキンググループに参加したご縁で、クチコミマーケティング協会の方々から今回の連載にお声がけいただきました。第8回では、出版社の立場から「ステマ規制」について考えてみたいと思います。

講談社は紙やデジタルのメディアを提供する媒体社として、「ステマ規制」を重要なトピックスと捉えています。詳しくは後述しますが、2023年3月よりメディアビジネス関連部署から人を集めたプロジェクトチームを結成し、対応を始めています。

出版社の広告審査の現在地

私の現在の仕事は広告審査です。審査にあたっては、法令、弊社で設けているガイドライン、関連する業界団体のガイドラインなどを判断の基準としています。

ご存じのように、紙がメインだった出版社の媒体も2000年代に入ってからインターネットの発展で激変、紙が主、デジタルが従という構図は崩れていきます。デジタルのみの媒体も急増し、広告売上においてもデジタル分野は成長を続けています。

紙の広告が前提だったころは、日本雑誌協会と日本雑誌広告協会の広告ガイドラインで事足りていましたが、デジタル分野の伸張にともない、デジタル広告は日本インタラクティブ広告協会(JIAA)、SNSなどへの投稿はクチコミマーケティング協会(WOMJ)と、それぞれに応じたガイドラインを指針と使い分けています。

インターネットが変えた女性誌と読者の関係

WOMJガイドラインを取り入れるまでの経緯として、雑誌と読者との関係性がどう変わってきたかを振り返ってみます(講談社で読者の会員組織を抱えているのは女性誌ですので、これ以降で例に挙げているのはすべて女性誌となります)。

雑誌というのはインフルエンサーを生み出す装置といっても過言はありません。美のカリスマ、ファッションリーダー、おしゃP(おしゃれプロデューサーの略)、〇〇の神様などと呼び名を変えつつ、さまざまなジャンルのインフルエンサーを送り出してきました。

強力なインフルエンサーを抱えることが雑誌の成長に寄与するので、常に旬の人を探しています。これに関して長らく共通していたのは、インフルエンサーはプロの役割という暗黙の了解でした。読者モデルや読者組織の会員は「一般の人なので、情報の発信者のサポートや情報の受け手」という認識でした。

そんな状況を一変させたのは、インターネットの急拡大でした。出版社を含む四大マスメディアが独占していた「情報発信」の手段を、インターネットを介してメディア以外の人たちも手に入れたのです。

さらにスマートフォンが発売されると、SNSとスマホアプリの相性の良さで、情報発信はより身近で手軽になりました。講談社では2009年に女性誌『with』が公式サイト「with online」内に読者組織「with OL委員会」(当時)の公式ブログを開設。この頃から読者も情報発信の一翼を担うという認識に移行していきます。

サービス精神旺盛な読者をいかにして守るか

公式ブログは編集部が内容を含めて管理するので、原稿を書くうえで知っておくべきルールや禁忌を読者が知らなくても問題はありませんでした。しかし2010年代半ばから新たな局面を迎えます。SNSが急速に広がり、一般の個人アカウントでも多数のフォロワーを抱え、インフルエンサーとなる人が多く登場します。

読者組織の会員も例外ではありません。会員の中には、万単位のフォロワーを抱え、仕事を受けるような人も増えていきました。

気を付けないといけないのは、投稿は「好意的に書く」が基本姿勢である読者が多いことです。とくに感想を書くためにクライアントから提供された商品については長所をうまく書くことに注力するあまり、ステマになりかねない案件も出てきたからです。

個人アカウントの内容については自主性を重んじていますが、読者会員が良かれと思って書いたことが知らぬうちに法令違反に踏み込まないよう、気を付けるべきことを伝えるのは編集部の役割と認識しています。

2010年代後半あたりから、女性誌編集部が主導する形で会員を対象とした勉強会を開いたり、WOMJガイドラインを確認するように勧めたりするようになりました。会員の入れ替わりもありますので、定期的に行うようにしています。

ステマ規制は編集部にとっても「自分ごと」

現在、講談社の女性誌は媒体ごとに会員組織の目的や運営が異なるため、プロも参加するインフルエンサーの集団、媒体のファンの集団、同じライフスタイルの集団、媒体制作に参加したい読者の集団など、さまざまな個性を持っています。

ひとくくりにすることはできませんが、媒体の名の下で活動する点ではいずれも同じです。また、編集タイアップやイベントなどで広告活動に参加してもらう機会も多々あります。今回のステマ規制は読者投稿にも波及するものとして、編集部も自分ごとと考えています。

9月に開催した営業向けの勉強会には過去にないほど多数の編集者が参加しました。また、WOMJガイドラインや勉強会を参考にして、編集部が読者組織向けのマニュアルを作成するなど、対応策を立てています。

レピュテーションリスクを避けるために実施したこと

景品表示法は広告主を対象とした法令です。出版社は自社コンテンツの広告以外では、直接罰則を受けるものではありません。しかし自社媒体に出稿いただいた広告がステマ規制の対象になってしまうと、広告主に多大な迷惑をかけることによる信用の失墜、媒体ブランド、ひいては会社全体の棄損につながり、大きな損失となります。

当社では今年3月にメディアビジネス関連の部署から人を集め、ステマ防止ガイドラインプロジェクトを立ち上げました。プロジェクトのメンバーはWOMJや業界団体が開催するセミナーを通じて、ステマ規制の理解に努め、10月に向けて準備を進めてきました。

このプロジェクトの目的は次の3つです。

1)プロジェクトのメンバーそれぞれが営業や編集の問い合わせ窓口となって各種の疑問に対応する

2)WOMJのガイドラインや資料にならって、ステマ規制の内容を当社の実情に即した形に落とし込んだQ&Aを作成し、現場の理解を促進する

3)ステマ規制の施行後も勉強会などを通じて情報のアップデートを社内共有する

10月に入っても、編集部や広告営業からの相談や問い合わせがあり、プロジェクトの活動は続いています。

これまで、法令の改正のたびに営業や編集の業務にかかわるものは、都度、勉強会の形で社内啓発をしてきましたが、10月からのステマ規制ほど、積極的に情報を求められたことはありません。「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の一文が与えたインパクトの大きさを実感しています。

冨田美緒(とみだ・みお)
講談社
ライツ・メディアビジネス本部 メディアビジネス部
『VOCE』『FRaU』などの雑誌編集を経て、女性誌のブランドマネージャーに。現在は広告審査担当として媒体に掲載される広告全般のチェック、および広告の法規制に関する社内啓発に携わる。

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